こんにちは!
カイゼン研究会の宇賀です。
今回のテーマは
「人」という問題をあきらめる前に〜創意くふう制度の歴史〜
です!
今回なぜこのテーマかというと、最近、中国ローカル企業のお客様の工場を回らしていただく機会が増えて来ています。
工場を訪問し、中国人の総経理の方、幹部の方の悩みを聞く中で、もっとも課題に感じていることは
従業員の自発性、創造性、行動力が不足している。。。
言われたことしかしない。。。
という内容で驚きました!
実際、日系企業の日本人総経理と同じ悩みを抱えているのです。
なぜ、意外に思ったかというと、中国のローカル企業の方々は会社、工場を運営する際に、文化の違い、人の価値観の違いがない分、日系企業ほど人の問題に頭を悩ませることはないものだと思っていたからです。
(社員の動機付けや、動かし方について日本企業よりうまくできていると思っていた。)
しかし、実際にローカル企業の現場を回る中で
人についての悩み
社員の自発性、創造性、行動力を育てたい
というのは、工場における、日中共通の問題だと実感しました。
なので今回は、
人という問題に対して取り組んだトヨタの創意くふう制度(従業員の改善提案)が どのような歴史をたどって、
根付くまでになったのかを見て何かヒントにならないかと考えていきます。
さて、創意くふう制度の背景から説明すると、1950年代のトヨタ自動車でも同じような問題に(従業員の自発性、創造性を伸ばすにはどうすればよいか?)直面しておりました。
そして経営陣が、フォードモーターに視察に行った際に見つけた従業員提案制度(提案書ボックスというのが設置され、自分で考えたカイゼン提案や要望等を従業員誰でも提出できる。そして採用されると、出た効果の何%かを報奨金としてもらえるという制度)に感銘を受けトヨタでもこの制度を採用しようとなったのがきっかけです。
ここまでで、人という問題に対して新しい制度の導入という形で効果を出そうとしたことがわかります。(まず問題に対して新しい試みをした)
ちなみに、他の日本企業でも、例えば松下や東芝でもこのころ、トヨタより前にこの提案制度を導入しています。
今ではカイゼン提案はトヨタがやっているからのようになっていますが特にトヨタだけがしていたことではないのです。
そして、導入をしてどう変化が起こったかというと、創意くふう提案数はなかなか伸びず、もともと意識の高かった従業員ばかりから提案され裾野が広がらないまま時間だけが過ぎていったそうです。(これ自体は強制的な仕事ではない)
なぜかというと、このころの従業員にとっては創意くふうというは、何か発明のようなハードルの高いものとして感じられており自分とは関係ないなと思う従業員が大多数だったということがあります。
一度始めてみた制度ですが、狙っていたような、従業員一人一人が創造性を発揮する。ということには近づけないまま20年が過ぎていったそうです。。。
(制度を始めたは良いものの、期待した変化は起こらないまま時間だけが過ぎた。。)
そこから、この制度に力を入れようという機運が高まったのが、1970年代の高度経済成長期だそうです。
なぜかというと、トヨタの工場でも、採用したが従業員が工場の仕事がつまらなくて単調なため、すぐにやめて他の会社に行ってしまうという問題が起こりだしたからです。(強い危機感が生まれた)
そのため、原点に立ち戻り、従業員の仕事は、単調な作業をすることではなく(言われたことだけする面白くない職場というイメージ)
頭を使って考えて、価値を生むこと
であるということを再度強調することで、従業員の意欲をあげるという方向性をトップが取ったのです。
すなわち、創意くふう制度発足当初の目的が浸透しないまま時間が経ってしまったが、従業員の創造性を成長させるという本来の目的を達成するために、この制度に力を入れるとなっていったのです。
(危機感をきっかけに、制度の普及、浸透のために何をすればよいのかということを本気で考えるようになります。。)
具体的には
・制度の普及に対する目標値の設定
(全員参加、2件/人/月・・・あくまで強制ではない制度だそうですが、職場間の競い合いもあるようで)
・創意くふう制度目的の説明・スローガンの設定
(職場中にポスターを張ったり、提案の具体例の掲示・・・そんなにハードルが高いものではないとわかるように)
・問題の見つけ方、トヨタ生産方式の教育、課題テーマの設定
(このころに、トヨタ生産方式が用語も含めて確立してくる。7つのムダや、小ロット化、多能工化などの考え方を基に改善の切り口が見つけやすくなる。そして今月はこれに取り組もうなど、職場でテーマの設定をし、自由提案より、見つけやすい環境を作る。)
・審査の仕組み見直し
(今まではすべて本社で審査していたが、現場の職長から始まり、各工場で審査し、金額が高いもののみを本社でチェックという流れに変更し、審査時間の大幅な短縮)
などなど
会社として制度を成功に導くために力を入れるので、それぞれの職場でも熱が入ります。
管理監督者の方々は大変だったと思います。
順調に提案数も増え、目標である全員参加を達成し、さらに提案数は伸びていきます。
(そもそもの危機感である、離職という問題に対して効果があったのかはわからないのですが。。。)
ちなみにこの時の、創意くふうの報奨金合計は20億円/年だそうです。
しかし、1980年代には新たな問題が出てきます。
それは件数が増えることが質の向上につながっているのか?(本当に提案数が増えることが良いのか?質はどうなの?)という問題です。
その問題を受けて、本社の委員会がすべての提案書に時間をかけて一つ一つ目を通すと、やはり
職場でも従業員でも提案数を増やしたいので同じ内容を違う人が書いて、提案数を稼いでいるモノ
提案自体が、手抜きでも(内容がない)数に計上されているモノ
同じ人が、職場仲間の分まで名前を変えて書かされているモノ、などが出てくるのです。
工場での審査を通過していることにも問題がありますが。。。
ということで本来の制度の目的が達成されず、形だけになってしまっているという危機感を持つことになります。
そこからさらに制度の改革が始まります。
具体的には
・全社における提案数目標の廃止
(ただし工場間の平均提案数を下回らないことを努力目標とする。という形で競い合いの部分は制度に残している)
・本社によるランダムのサンプル抜き取り調査
(実際工場内だけで審査が終わる低額の提案に対してもランダムに抜き取り調査が行われ、評価、内容の確認があり、部門、職場にフィードバックされる)
・報奨金ランクの再設定
(さらに高額のランクを設定。及びランクごとに提案数の上限割合を設定。質の低いものだけで数を稼げないようにする。)
・着想性という基準追加
(どうやって気付いたのか?つまり、誰も気づかない問題?みんな気付いているけど取り組んでいなかった問題?誰でも気づく小さな問題?などの目の付け所を評価する。)
などなどです。
こういう風に順風満帆に運用していたように見える創意くふう制度ですが、新たな問題意識、疑いの目を向け(制度の目的は本当にこれで達成できているのか?)さらにまた、制度を新しくしていくのです。
制度が新しくなると、職場でも新しい問題(質の高い提案を部下に書いてもらうためにはどうすれば良いのか?)という課題が生まれ、
創意くふうの書き方マニュアル
カイゼン提案教育
という新たな標準が生まれていったのです。
今では現場だけでなく、事技職(デジタル化という面で改善が必要な職業なので)にも導入されています。
長々と歴史を書いてきましたが、ここで言いたいのは
人の問題という答えのない問題に対してトヨタは他社の事例である創意くふう提案制度を導入しました。
しかし、制度を導入するだけではもちろん解決できないのです。
運用が開始された後も、それが実際にどうなっているかを確認し、
絶えず、その制度は何のために導入したのか?ということを問い
不足していることは何か?
向性はこれであっているのか?
を考え組織の状況そして時代に合った制度内容、ルールに変えていく。
その運用した結果、成果を出していくということが必要だということです。
まず、新しく変えてみる(制度の導入)ことが重要ですが、それで終わり(成功だった、失敗だったということ)でなく、その制度を刷新し続けることで初めて、制度を入れた目的が達成されることにつながるのではないかということです。
そして新しい制度が導入されたり、刷新されたりするたびに、職場レベルでも新しい課題が生まれ、それを解決しようと、また新しい習慣やルールが生まれるという好循環が根付いていくので、そういう意味でも新しくし続けることが、成果、価値につながっているのではないかと思います。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。