こんにちは!
カイゼン研究会の宇賀です。
海底撈火鍋(カイテイロウヒナベ)という火鍋レストランに行ったことはありますか?
(中国、タイにも日本にもありますのでぜひお試しください!)
味がどうというより
「え、そんなことまでしてくれるの?」
「こんな愛想よく、丁寧で、気づく力まですごいの?」と、
どの店に行っても入店からお会計までのサービス、接客、機転、マニュアルではありえない自主性に驚かされる店です。
「いったい、どんな方法で従業員がこんなに自発的に働けるようになるんだ??」
と毎回思うわけです。
なので、今回のテーマは、工場経営でも重要なエンパワーメントについて考えていきます。
(1)エンパワーメントって何?なんで必要なの?
(2)情報共有の重要性について考える
(3)華為、海底撈など中国企業の事例
の順で書いていきます。
今回は長くなりますので時間のある時にゆっくりお読みいただければと思います。
(1)エンパワーメントって何?なんで必要なの?
■エンパワーメントとは
リーダーシップ研究で有名で1分間シリーズで有名なケン・ブランチャードさんによると、
「自律した社員が自らの力で仕事を進めていける環境を作ろうとする取り組み」
[Kenneth Hartley Blanchard 2001: 1分間エンパワーメント]
という意味とされています。
星野リゾートの星野社長が一番影響を受けた本として紹介し、
本人が監修した日本語版が2017年に発売されました。
◎どのように活気ある組織を作るか?
◎そのためにどう従業員の能力を最大限引き出していくか?
◎その環境をどう整えていくか?
従業員自らアイデアを出し、自分ごととして、仕事に取り組むことで組織と自分自身に利益をもたらす。
経営者や管理職なら一度は悩んだことがある従業員の自律性、自発性について真正面から取り組んでいく内容です。
自分もこれを知るまでは
「権限を委譲するんでしょう?」
「海外拠点で言うところの現地化でしょう?」
くらいに思っていましたが、間違いでした。
■なぜ必要なのか?
これだけ聞くと理想的すぎると思われるのですが、対極にある組織の話をすると分かりやすくなります。
それはトップダウンで言われたことしかしない従業員による組織です。
(言われたことさえしない場合もありますが)
トップダウンは悪いことではありませんが、
細部に至るまで経営者や幹部が口出しして初めて受け身の従業員が動くというような組織のことです。
目が届かない場所が増えるほど管理が難しくなります。
もちろんカリスマ経営者のいるような組織ではそうなってしまうことが多いようですが、
持続的に成功している組織の特徴を研究していくと、
従業員の自律性、すなわちエンパワーメントされているか、
ということが重要だという流れになってきています。
そして星野リゾートのような有名で具体的な成功例も出てきていることから取り組む企業が増えているということです。
これは、工場でも同じで、組織の性質で大きな差が出ます。
駐在員が指摘したことや、総経理が言ったことはやりますが、
早く終わらせたいからというモチベーションでこなす。
自分からアイデアを出したり、もっと良い方法を探求したり、
トラブルの際も自分ごととして行動しフォローされなくても自ら問題解決をすることができない、
という悩み相談をよくもらいます。
■従業員が自ら動き出すためには?
組織文化をすぐに変えるというのは無理がありますが、
1歩ずつ変えるために必要な3つの鍵というのが提唱されています。
1.正確な情報を全社員と共有する
2.境界線を引いて、自律した働き方を促す
3.階級思考をセルフマネジメント・チームで置き換える
詳細は省きますが、
1はすべての従業員に経営状態について考えもらうための情報を共有し、仕事の目標や目的としてもらうことでその情報から何をすればよいか自ら考え、責任ある仕事をしてもらう。
2は組織の価値観、ルールや従業員への期待を明文化し、会社と従業員が考える役割や責任を一致させる。
3は管理者とセルフマネジメントについて、今までの一方的なコミュニケーションでなく、また任せたと言って自由にさせるだけでなくチームの中で、リーダーでありながらも上司に頼らず仕事を進める方法を教えサポートに回るような働き方に変える。
(2)情報共有の重要性について考える
特に1の情報共有については星野リゾートの例がとても具体的でわかりやすいです。
急に旅館経営を任され、カイゼンしたい内容は山ほどあるが、従業員は非協力的。
中でも料理をもっと美味しくしたいとは思っていたものの、それを言うと辞めてしまうという状況でした。
さらに美味しさというのも主観的なので納得いかないのも当たり前だった。
そこで、情報共有を使おうと思いつき外部調査会社に依頼し、顧客満足度を数値化してもらいその結果を全社員に毎月公開することにした。
そうすると、各項目ごとにお客様の評価が出るので料理の満足度が低いということも分かった。
「美味しくない」というお客様からの感想を見た途端、特に指示も出していないが料理のカイゼンを自ら始めた。
評価が低い他の部門も同じで、何か満足度を上げるための変化を考えるようになった。
ここで気づいたのは、従業員は会社の利益などには無頓着だが
「自分のサービスでお客様に満足してほしい」
という気持ちは、従業員はもともとの性質として持っているということだった。
これはすごくわかりやすい例で、従業員自ら守りたくなるようなモノサシを考え、
それを事実、データとして共有し自分で考えて、改善を引き出す。
これが情報共有により従業員の能力を引き出すということかと腹落ちしました。
では工場にとって従業員が自ら守りたくなるようなモノサシって何だろう?
と考えるといろいろ試せそうです。
お客様満足度という例でみると、工場の従業員にとってはやはり遠い存在です。
ホテルと違って直接お客様にサービスを提供している部署は限られています。
じゃあ「後工程はお客様」って言うくらいだから、後工程の満足度はというのもアイデアで出てきそうです。
しかし、後工程を満足させることが自発的に守りたくなるようなモノサシになるのかというのはわかりません。
そんな従業員が多ければ情報共有の効果は大きそうですが、目の前の人に喜んでほしいというホテル従業員の性質とは違うモチベーションとも思えます。
しかし、後工程、前工程に喜んでもらえる仕事ができているというのは工場の従業員の仕事としては理想的です。
そして、どんなモノサシを使ったとしても上手くいかないときは来るという前提で日々見直す、てこ入れするということは必要です。
トヨタでも従業員に自由な発想の機会をということで創意工夫が始まり、
その時のモノサシ、KPIは提案件数(量)でしたが徐々にやらされ仕事になり、提案の質が問題となってきました。
じゃあ質を上げるためにはどうしようか?というのが考えられ、今でも変更を加えられながら維持されています。
お客様満足度のように会社の方針でもあり、従業員の動機でもある場合はすごい効果を発揮しそうなのが、
このエンパワーメントにおける情報共有でした。
稲森和夫さんのアメーバ経営などもそれに当てはまると思います。
各プロフィットセンターで会計管理を導入することで従業員に自分の商売だという感覚を持たせ、
自律的な仕事の方法を促す情報共有になっています。
様々な企業にも導入され、主にリーダーの収益性意識、責任感、動機付けが向上していき、
個人的努力が組織的成果と結びつくことでより他のメンバーにも波及するというサイクルが出てきています。
しかし、京セラさんもマンネリ化と日々戦い続けているはずです。
どんな情報やモノサシを使うとしても
・データと事実をもとに話す
・アイデアを引き出す場をチームで設定し運営する
ことをうまくサポートできる管理者が重要になってきます。
(3)華為、海底撈など中国企業の事例
じゃあ成功している中国企業はどんなエンパワーメントしているのか?というのを見ていきます。
各企業で3本分は書ける内容なので詳細はまた別の機会に書きます!
2社に共通しているのは、
まず社員への期待値や役割責任を明確に明言し(エンパワーメントの2)、
会社と一緒に努力し結果を出したら必ず報われますというのを制度として理解してもらい、
従業員に納得してもらって働きだすところです。
ここが日本企業とは大きく違っている部分です。
■華為について
まず華為(ファーウェイ)について、有名なので説明は省きますが、通信機器大手で中国を代表する企業です。
売上約12兆円(2022年)という大企業でありながら非上場という会社です。
第3者の出資もなく株主は創業者と社員もしくは元社員です。
エンパワーメントという視点で見ていくと、まずほとんどの社員が企業業績を意識せざるを得ない仕組みになっています。
日本ではある程度の年次になると労働組合から抜け、企業側である管理職になる会社が多くあります。
そして給料も業績連動の割合が高くなり、一般社員に比べ会社目線、業績目線での行動を求められます。
残業代等もなくなるのが通常です。
それと似た仕組みで、華為では奮闘者というのがあります。
華為基本法によると自己犠牲もいとわない人で 会社は必ずその人に報いるという、
一言で言うと、華為社内のあるべき社員像という感じです。
年次に関係なく、その奮闘者になるかどうかというのを自分で決めます。
もちろん審査はありますが、審査に通ると、残業代や有休という概念はなくなり、
会社のために仕事をする代わりに業績連動報酬が追加される仕組みです。
7割くらいが奮闘者だそうです。
(残り3割は新人や製造の作業者)
特にエンパワーメント第2のカギである
2.境界線を引いて、自律した働き方を促す
が華為基本法という103条もある文書で会社の期待値、従業員の責任が確立されており、
年次目標の達成度という個人業績と組織の業績という評価が明確に分かれています。
競争も激しく、賃金にも13級から22級の10段階、職位で5段階あります。
職位5段階目の賃金は2億円を超えるそうです。(笑)
特徴的なのは2種類の報酬です。
短期的報酬(基本給、賞与、○○賞などの賞金が豊富)
長期的報酬(持ち株、ファントムストック、時間計画単位)
長期的報酬は株価と連動するので奮闘者は自然に会社目線での仕事するようになりますし、
時間計画単位(※)のように数年後に報酬がもらえるという制度もあるのでリテンションの目的も果たしています。
※時間計画単位とは?
成績が良かったものに与えられるポイント(株式)のようなもので、実際の株価の配当金に連動してもらった翌年から配当がもらえます。
5年限定ですが、5年後に株価が上がっていれば株価の差額×ポイントが現金としてもらえます。
少し複雑ですが、グローバル企業として外国籍の従業員にも長期的な報酬が渡せるように始まったそうです。
職位も任期制で、昇格、降格が繰り返されマンネリ化できない仕組みにもなっています。
とにかく会社の利益、業績が個人につながり、そのためには顧客第一で行動しろよというのが徹底されています。
そして、株の社員への分配がすごいので創業者の持ち株は1%を切っています。(非上場なのに。笑)
どれだけ人材を重視しているかが分かる数字です。
■海底撈について
やっと冒頭の話に戻ってきたのですが、どうやってあんなに自発的で積極的な社員を育てているんだ?
という疑問から始まりました。
基本情報を言うと、四川で始まった火鍋レストランで時価総額ランキングでは飲食店という業種に絞るとマクドナルド、スターバックスに続く第3位です。
すべて直営店でありフランチャイズはありません。
アルバイト等はおらず、すべて正社員で構成されているそうです。
最近、ホールスタッフから始めた従業員がCEOとなったことでも騒がれました。
利益より「顧客満足度」「従業員満足度」
この2つが全社的な評価指標、KPIであることが特徴的で従業員を大切にする制度が数多くあります。
従業員は農村から出てきている人が多く、華為のように高学歴の技術集団とは対照的な構成です。
一番のロールモデルは店長であり、報酬もその店舗の利益の約3%となります。
皆この夢を目指して一般スタッフから始まります。
中でも特筆すべきは「師弟制度」です。
日本のOJTのようですが、まったく制度が違っております。
(この師弟関係は以降ずっと続きます)
師匠になることは評価された証であり給料も上がります。
競争が激しいため、業務をしっかり教えないインセンティブが働きそうですが、それを上回る仕掛けがあります。
師匠は弟子に業務内容だけでなく、店舗での人間関係、従業員一人一人の特徴など暗黙知まで全て教えます。
そして公私にわたりほとんど家族のような関係を築きます。
なぜなら報酬制度に関わっているからです。
店長が弟子を育て、その弟子が他の店舗の店長となると、弟子の店舗の利益約3%が師匠の給料となるのです。
弟子の弟子が店長になってもそのテンポから1.5%の利益がもらえ、それは師匠が退職してからも続くのです。笑
良い人材を育て、自分の店舗が良い成績を残し、弟子を新店舗に独立させていくという流れがこの店長を頂点とする報酬制度の真骨頂になります。
その代わり弟子の店舗が低評価を取った場合、師匠の評価もそれに引きずられ給料が下がります。
まさに、一連托生の関係がずっと続くため、自発的に熱心の人材育成が行われる環境になっています。
ノウハウや知見をすべて教える関係ができるということです。
人材育成をどう管理者の仕事に組み込むかというのは工場でも大きなテーマの一つです。
OJTより1歩も2歩も進んだ制度が海底撈では確立されていました。
そうやって育てられているホールスタッフはなぜ自ら気づき、至れり尽くせりサービスを提供できるかを見ていくと、驚きのルールがありました、、
サービススタッフ全員に料金の割引や無料にする権利を委譲しているのです。
チームリーダーに至っては顧客の消費額の2倍までは自分で決定します。(事後報告は必要です)
そして店内、店外に関わらずお客を助けるためであれば200元以内で支援する決定までして良いそうなのです。
事後報告の際にその決定や判断について誤っているところがあれば教育などはありそうですが、
基本的にお客のための決定そして金銭的な権限まで一般スタッフに与えているということです。
これはスタッフからしても信用されている証となり、もっとお客が困っていないかなどに目を光らす動機にもなるはずです。
もちろん材料間違いなどミスによる罰金、運んだ回数に応じた課金など業務の中でのアメとムチもあります。
そしてまた特徴的なものはスタッフの両親へ毎月200~400元の現金支給という福利厚生もあります。
この従業員の家族を大切にするという制度のおかげで、春節終わりも、みんな実家から早く帰ってくるそうです。
(親に早く職場に戻れと言われる。笑)
まだまだいろんな制度がありますが今回は長すぎるのでまた別の機会にします。
このように、従業員への期待値を明確化し会社の情報の開示、そして会社の中での役割、責任、報酬を合意して働きだす。
組織の成果と個人の努力がつながっているように見える仕組みが成功している企業には整っています。
まだ記憶に新しい台湾企業である鴻海によるシャープの再建も、
下げられた賃金を正常に戻し、組織と従業員の役割の明確化評価、
報酬制度の刷新から始まっていたようです。
(これもまた別の機会に)
様々な例を挙げてきましたが、エンパワーメントについては一朝一夕で変わるものではないので、
何かを仕掛け、試す価値はあると思います。
進めていくヒントになればうれしく思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
